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東京地方裁判所 平成8年(ワ)14176号 判決

原告

甲野春子

外二名

右原告ら訴訟代理人弁護士

石倉豊昭

加藤勝

被告

乙川秋子

外二名

右被告ら訴訟代理人弁護士

渡辺昭典

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主位的請求

(一) 被告乙川秋子は、原告ら各自に対し、それぞれ金二九四七万五九三五円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成八年八月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 被告乙川二郎は、原告ら各自に対し、それぞれ金一五〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成八年八月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 被告乙川冬子は、原告ら各自に対し、それぞれ金五〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成八年八月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(四) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(五) 仮執行宣言

2  予備的請求

(一) 乙川B子の平成四年七月一七日東京法務局所属公証人藤野豊作成同年第一八六〇号遺言公正証書第九条に基づき、遺言執行者濱田清が行った被告らに対する遺贈の指定はそれぞれ無効であることを確認する。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  主位的請求と予備的請求とに共通する主張

(一) 当事者

(1) 原告ら(相続人)

① 被相続人乙川B子(以下「被相続人B子」又は単に「B子」という。)は、平成六年一〇月一三日死亡し、相続が開始した。

② 甲野D子(以下「D子」という。)は、昭和一八年三月一七日、被相続人B子の父甲野太郎と養子縁組届をなし、同人の養子となった。したがって、この養子縁組により、D子は被相続人B子の姉となった。

③ 被相続人B子は、昭和五年三月、乙川A男(明治三六年一月一七日生・平成三年五月一三日没)と婚姻し、子乙川C男(昭和八年二月一一日生・平成二年二月一九日没)を設けたが、夫及び子とも被相続人B子の生前に死亡してしまっており、また、前記乙川C男は昭和五〇年四月被告乙川秋子(以下「被告秋子」という。)と婚姻したが、その間に子はいないから、被相続人B子の相続人は、姉のD子のみであった。

④ D子は、平成七年三月二九日に死亡し、相続が開始した。

⑤ D子の相続人は、D子の子である原告らであり、原告らは、各三分の一の割合で、D子の遺産を取得した。

(2) 被告ら(受遺者)

① 被告秋子は、前記のとおり、被相続人B子の子乙川C男の配偶者である。

② 被告乙川二郎(以下「被告二郎」という。)は、右乙川A男の甥であり、被告乙川冬子(以下「被告冬子」という。)は被告二郎の配偶者である。

③ 被告らは、被相続人B子の相続人ではないが、後述する被相続人B子の遺言により、いずれも受遺者として指定された。

(二) 被相続人B子の遺言と遺言執行者による財産分配指定

(1) 被相続人B子の遺言

① 被相続人B子は、平成四年七月一七日、公正証書遺言を作成した(以下「本件遺言」という。)。

② 被相続人B子には、同人死亡時、総額約金九億二五〇〇万円(相続時評価)の遺産があった(以下「本件遺産」という。)。

③ 本件遺言により、被告らはそれぞれ受遺者に指定され、左記遺産を遺贈された。

被告秋子 金一億円及び別紙物件目録(二)記載建物

被告二郎 金六〇〇〇万円、別紙物件目録(一)記載建物及び動産一切(約金八〇〇万円相当)

被告冬子 金二〇〇〇万円

④ 本件遺言により、原告らが指定された相続分は左記のとおりである。

原告春子 金三〇〇〇万円

原告夏子 金三〇〇〇万円

原告一夫 金五〇〇〇万円

⑤ なお、本件遺言には、前記③及び④の遺贈ないし相続分の指定、甲野E男に対する金二〇〇〇万円の遺贈、及び医学部大学院生に対する奨学金給付を目的とする公益信託の設定費用(金三億円)(本件遺言書第一条ないし第八条記載の財産)を除く遺産から遺言執行費用を控除した分について、被告らに「各遺贈し」、また原告らに「各相続させ」ることとし、各自の所得額の決定を遺言執行者(濱田清弁護士)に委ねる旨の条項がある(本件遺言書第九条)。

(2) 遺言執行者による残余財産分配の指定

遺言執行者濱田清弁護士は、平成七年五月、本件遺言書第九条に基づき、左記の通り、原告ら及び被告らが取得する財産の指定をした(以下「本件分配指定」という。)。

原告春子 金二二五〇万円

原告夏子 金二二五〇万円

原告一夫 金三七五〇万円

原告二郎 金四五〇〇万円

被告冬子 金一五〇〇万円

被告秋子 右以外の残余財産一切

(内訳)現預金 一九〇二万一八七二円

有価証券 六九四〇万五九三五円

その他 五万〇六〇六円  2 主位的請求関係

(一) 本件遺言書第九条の無効

本件分配指定は、本件遺言書第九条に基づくものであるが、右条項は、以下に述べるように無効であって、それゆえ、右条項に基づく本件分配指定は法律上の根拠を欠くものというべきである。

(1) 右条項により遺産の分配指定を受ける当事者には、相続人である原告らの他に受遺者である被告らが含まれている。

(2) 民法は被相続人が第三者に指定を委ねることが可能な事項として「相続分の指定」(同法九〇二条)および「遺産分割方法の指定」(同法九〇八条)を掲げているが、遺贈の場合において受遺者の受遺割合を第三者に指定させることを許す規定は存在しない。被相続人による相続分の指定や遺産分割方法の指定がなされる前の権利関係を決定する法定の基準が、相続人の場合には存在するのに対して、受遺者の場合には存在しない。即ち、「相続分の指定」も「遺産分割方法の指定」も共に相続人のみが関係する問題であるから、右指定がなされる前の段階でも、相続人間において遺産共有を推定する規定(同法八九八条)と、その相続分を定める規定(同法九〇〇条)が相侯って遺産に対する各人の権利関係を一応定めることができる。しかるに、遺贈の場合(受遺者が相続人ではない場合)には、右のような権利推定の規定を欠くために、受遺者が配分割合の指定を受ける前の段階では、同人が遺産のいかなる範囲についていかなる「割合」の権利を有するか全く不明となる。そして、それはひとり受遺者の問題に留まらず、遺贈の権利対象が判明しない以上、遺贈以外の遺産を対象とする受遺者以外の相続人の権利関係もまた不分明とならざるを得ない状態が生じる。

したがって、法は、遺贈においては、遺言によりあくまで遺言者自身が原始的に割合指定することを必要として、第三者が後発的に割合指定することを許さなかったものと解される。

(3) 受遺者の選定を遺言執行者に委託する旨の遺言を有効とした最高裁判所平成五年一月一九日第三小法廷判決・民集四七巻一号一頁は本件のような遺贈の配分(割合)の指定を遺言執行者に委ねることまで有効と判示したものではなく、本件には適用されない。

(4) 遺贈割合の指定を第三者に委ねる遺言は、指定を受ける受遺者間に利害の対立がなく、指定権の濫用の余地がない場合はともかく、本件のような典型的な相続紛争が予測される相続人・受遺者間の割合の指定の場合は、深刻な対立を引き起こす可能性があり、配分(割合)の指定の委託を受けた第三者による権限の濫用の危険性が大きいから、無効である。

(5) 以上の理由で、遺贈においては第三者に割合指定を委ねることは許されないと解すべきであるところ、本件遺言書第九条は受遺者である被告らがいかなる範囲の財産を取得するかを遺言執行者(第三者)に委ねているものであるから、法の趣旨に反し、無効であるというべきである。

(二) 原告らの不当利得返還請求権

(1) 本件分配指定により被告らが取得した各資産は法律上の原因なくして得た利得であり、他方、これにより被相続人B子の相続人であったD子は、相続人たる地位に基づき右資産を当然に承継できるにもかかわらず、これを被告らに先取されることにより損失を蒙っていたものであるから、不当利得返還請求権(民法第七〇三条)に基づき、被告秋子に対し、同人が本件遺言書第九条に基づき分配を受けた資産のうち少なくとも金八八四二万七八〇七円(現預金及び有価証券の合計額)、被告二郎に対し、同じく分配を受けた資産金四五〇〇万円、被告冬子に対し、同じく分配を受けた資産金一五〇〇万円の各支払を求める権利を有していた。

(2) しかるに、D子は平成七年三月二九日に死亡し、D子の子である原告らは、D子の右権利を各三分の一の割合で承継取得した。

(3) よって、原告らは、右の各自承継した不当利得返還請求権に基づき、主位的請求の趣旨記載の支払を求める。

3  予備的請求関係

(一) 原告らと甲野F男(以下「F男」という。)との関係

(1) F男は、昭和一八年三月一七日、被相続人の父甲野太郎と養子縁組届けをなし、同人の養子となり、被相続人B子の兄となった。

(2) F男は、昭和四二年九月一八日に死亡し、相続が開始した。

(3) 原告らは、いずれもF男の子であり、F男の相続人であった。

(二) 本件分配指定の無効(信義則違反)

本件分配指定は、以下に述べるように、信義則に反して無効である。

(1) 被相続人は、平成二年一二月四日に、それまで居住していた左記土地(以下「本件大森の土地」という。)を売却したが、本件遺産の大部分は右売却代金を元に形成されたものであった。

①所在 東京都大田区大森北壱丁目

地番 〈略〉

地目 宅地

面積 197.55平方メートル

②所在 東京都大田区大森北壱丁目

地番 〈略〉

地目 宅地

面積 182.90平方メートル

(2) ところで、右土地は、被相続人の夫であった乙川A男が昭和二六年七月に購入取得したものであるが、原告らの父であるF男は、乙川A男が右土地を購入するにあたり、その資金として金三〇万円を贈与した。金三〇万円という金額は当時としては大金であり、右土地購入資金のほぼ全額を賄えるほどの額であった。したがって、本件遺産の形成にあたり、原告らの父であるF男には絶大な寄与があった。

(3) よって、本件分配指定がなされるにあたっても、右原告らの父F男の寄与を配慮した上でなされることが必要というべきであり、原告らは、本件遺言執行者たる濱田清弁護士にもその旨申入れた。

(4) それにもかかわらず、本件分配指定は、前記F男の寄与について何ら顧ることなく、ことさら無視してなされたものであり、信義則に違反し無効というべきである。

(三) よって、原告らは予備的請求の趣旨記載の遺贈の指定が無効であることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)の事実は認める。

2  同1(二)(1)の事実のうち、②記載の遺産の総額部分を否認し、その余の事実は認める。遺産の総額は、金八億九二四五万五一二五円である。

3  同1(二)(2)の事実のうち、被告秋子の取得額の内訳の「有価証券」及び「その他」の額は否認し、その余の事実は認める。

4  同2は否認ないし争う

5  同3(一)の事実は認める。

6  同3(二)(1)の事実のうち、被相続人B子が平成二年一二月に、原告ら主張の本件大森の土地の持ち分(四分の一)を売却した事実を認め、その余は否認ないし争う。

7  同3(二)(2)の事実のうち、乙川A男が昭和二六年に本件大森の土地を購入した事実を認め、その余は否認ないし争う。

8  同3(二)(3)の事実のうち、原告らが本件遺言執行者たる濱田清弁護士に申入れを行った事実は認め、その余は否認ないし争う。

9  同3(二)(4)は否認ないし争う。

10  同3(三)は争う。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実について

1  請求原因1(一)の事実は、当事者間に争いない。

2  同1(二)の事実は、(1)(被相続人B子の遺言)中②の遺産総額部分、及び(2)(遺産執行者による残余財産分配指定)のうち被告秋子の取得額の内訳の「有価証券」及び「その他」の額の記載部分を除いて、すべて当事者間に争いない。

そして、証拠(甲二四、二五、乙五、弁論の全趣旨)によれば、(1)②の本件遺産の総額は金八億九二四五万五一二五円、(2)の被告秋子の取得額の総額は八七五七万九〇九三円(現預金 金一九〇二万一八七二円、有価証券 金六九五〇万四三一二円、山林と立木 金五万〇六〇六円、その他 金五六八万四六九三円、債務等 金六六八万二三九〇円)であることが認められる。

二  請求原因2(主位的請求関係)について

1  同2(一)の本件遺言書第九条の効力

本件分配指定は、本件遺言書第九条に基づくものであるところ、証拠(甲一)によれば、右条項は、本件遺言書第一条ないし第八条記載の財産を除く遺産から遺言執行費用を控除した残余財産を、相続人たる原告らと受遺者たる被告らに相続ないし遺贈させること、並びに原告ら及び被告ら各自の取得額の決定を遺言執行者に委ねることを定めていることが認められる。

原告らは、本件遺言書第九条が、受遺者である被告らが遺贈により取得する財産の範囲を遺言執行者に委ねていることを理由に、右条項の遺言は無効である旨主張しているので、以下この点について判断する。

遺言は、その対象が本来代替性のない人の身分にかかわる行為であり、通常の契約とは異なり相手方のない単独行為であって、遺言者本人の意思のみを尊重すべきものとしてこれに拘束力が付与された法律行為であるから、遺言の代理は許されず、このような遺言代理の禁止の原則に反する遺言は無効といわざるを得ない。

ところで、本件遺言書においては、前記のとおり、既に受遺者が被告ら三名と確定しており、遺贈の対象とされる財産の割当てのみが遺言執行者に委ねられているに過ぎない。もともと、本件遺言は、先ず本件遺言書第一条ないし第八条において、本件遺産の一部について、受遺者等遺産の割当てを受ける者及び割当て方法を特定し、第九条において、前記のとおり、第一条ないし第八条記載の財産を除いた遺産から遺言執行費用を控除することにより確定する残余財産について、その割当てを受ける者を原告ら三名及び被告ら三名に特定して、それらの者の各取得額の決定を遺言執行者に委ねているものであるところ、右のような本件遺言の内容に照らすと、遺言者B子においては、本件遺産の一部についてはその受遺者等割当てを受ける者及び割当て方法を自らの意思で決定し、その余の遺産については受遺者等割当てを受ける者のみを自らの意思で特定し、その割当て方法については遺言執行者の決定に委ねるという最終意思を有していたものと認めることができる。

遺言においては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して可能な限りこれを有効となるように解釈することが遺言者の意思に沿うゆえんであるところ(最高裁判所平成五年一月一九日第三小法廷判決・民集四七巻一号一頁参照)、右のような本件遺言の内容に照らすと、本件遺言書第九条が、本件遺産の一部について、遺言者本人が受遺者等遺産の割当てを受ける者を特定してその選定を許さず、その割当て方法のみを遺言執行者の決定に委ねることは、遺言者B子の最終意思に基づくものであり、かつ、その遺言執行者の決定に委ねる範囲も特定されているというべきであり、これが遺言代理の禁止の原則に抵触するものということはできず、かかる内容を有する本件遺言書第九条の効力を否定することは、かえって遺言者の右の最終意思を否定し、その実現を妨げることとなるから許されないというべきである。

原告らは、本件のような相続人・受遺者間の遺産割合の指定の場合は、深刻な対立を引き起こす可能性があり、遺産の割当てを第三者に委託することは、受託者の権限濫用の危険性が大きいから、その効力を肯定するべきではない旨主張するが、後記三2(二)で認定した本件遺言の全体的内容、遺言者B子が本件遺言をするに至った動機及び遺言内容から推認される遺言者B子の遺言意思の内容等に照らすと、本件においては本件遺言書第九条により遺産の割当て方法を委ねられた遺言執行者がその受託権限を濫用したものと認めるべき事情は認められない。また、本件遺言書第九条においては、遺産の割当て方法を決定すべき受託者として、一般の第三者ではなく、遺言執行者が指定されているところ、遺言執行者は、遺言の執行につき善良なる管理者の注意をもってその事務を行う義務を負うこととされているばかりか(民法一〇一二条)、家庭裁判所の管理監督の下に置かれていること(同法一〇一九条)に鑑みると、遺言執行者が受託者として指定された場合には、遺産の割当て方法の決定に当たり、その受託権限の濫用について事実上抑制力が働くものと見ることができるし、本件において遺言執行者がその受託権限を濫用する危険性が大きかったことを肯定すべき特別の事情が存在したことを認めるに足りる証拠もないから、受託権限の濫用の危険性を理由として本件遺言書第九条の無効をいう原告らの右主張も採用することはできない。

2  以上によれば、本件遺言書第九条は有効というべきであるから、これが無効であることを前提として本件分配指定の無効をいう原告らの主張は理由がない。

3  よって、原告らの主位的請求は理由がない。

三  請求原因3(予備的請求関係)について

1  同3(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  同3(二)の事実について

(一)  原告らは、本件遺産の大部分は本件大森の土地の売却代金を元に形成されたものであり、また本件大森の土地は被相続人B子の夫乙川A男が昭和二六年に購入したものであるところ、原告らの父F男は乙川A男に対してその購入資金のほぼ全額を賄える金三〇万円を贈与した旨主張している。

なるほど、証拠(甲一五、一六)によれば、昭和二六年に右土地購入資金として金三〇万円がF男から乙川A男に交付された事実が認められるが、乙川A男からF男に三〇万円の領収書とともに送付された手紙に、「領収書とあるのは、借用証としなくてもよいのですか」との記載があることに照らすと、三〇万円の交付を受けた乙川A男においては、右の金銭について贈与を受けたのではなくて借金をしたとの認識を有していたことが窺われるのであり、他方、三〇万円の土地購入資金がF男から乙川A男に対し贈与された事実を認定するに足りる証拠はない。

(二)  証拠(甲一、二四、二五、乙四、七の一、八の一、九の一)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告らが本件遺言書第九条に基づいて取得した財産価額は、同条項で配分の対象とされた遺産の35.9パーセントを占めており、この分も含めて原告らにおいては、本件遺言により、本件遺産(公益信託分を除く)の32.5パーセントの財産を取得しており、その額は、原告一夫八七五〇万円、原告春子五二五〇万円、原告夏子五二五〇万円となっている。

(2) 被告秋子は被相続人B子の一人息子乙川C男の妻であり、右乙川C男の死後も夫の母である被相続人B子の面倒をみてきたものであり、被相続人B子が本件遺言を作成した最大の目的は、亡き息子の妻である被告秋子の将来の生活の安定であったことが窺われる。

(3) 被告二郎と被告冬子は、被相続人B子の甥夫妻であるところ、被相続人B子の親戚関係者のうちB子と同じく東京に在住するのは被告二郎夫妻のみであったことから、被告二郎夫妻と、B子夫妻及びその家族である乙川C男夫妻とは、他の親戚に比べ特に親しい関係にあったことが窺われ、特に平成二年二月のB子の長男乙川C男の死去後は、B子が死亡するまで、被告らにおいてB子の世話をしてきており、B子は同人らに対し感謝の念を有していた。

(三)  以上の事実を総合考慮すれば、本件分配指定は被相続人B子の意思に沿ったものということができ、またその分配指定の内容に照らしても、本件分配指定が原告らのいうように信義誠実の原則に反するものということはできない。

なお、前記(一)に記載したことからも、原告らの父F男が本件遺産の形成に寄与したとの事実を認定することは困難であるし、また仮にそのような事実を認定できるとしても、本件分配指定を信義誠実の原則に反して無効であるとする原告らの主張を採用することはできない。

3  よって、原告らの予備的請求は理由がない。

四  よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官濵野惺)

別紙〈省略〉

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